Award
Session!2020 テーマ
今年は『建築の2020年代を考える』をテーマに掲げています。
2010年以前の建築は作品としての主張が強かったが、東日本大震災を契機に作品主義の建築に疑念が抱かれ始めました。作品としての建築ではなく、人々に寄り添った建築へと変化していくのか、東京オリンピックや大阪万博などがこの先開催される中で建築が建築業界だけでなく、これからの社会問題にどう関わっていくのか、建築がどのように社会に貢献していくのか、など、「建築のこれから」について卒業設計を通して考えたいという思いからこのテーマにしました。
新設「にいがたゆきどけ賞」
本年度のSession!2020のテーマである「建築の2020年代を考える」とその宣言文は、 新潟建築学生フォーラム.nを運営する学生たちによって掲げられた切実な想いが込められた文章でした。 それは、私たちにとってとても魅力的であると同時に私たちゲスト自身にも問われているような内容でした。 その学生らの切実な想いを受けて、従来の最優秀賞や優秀賞など順位を決める卒業設計ではなく、 この宣言文のように未来を感じさせるものを議論し、それに値する新潟独自の賞を設立するに至りました。 春の訪れを感じる「ゆきどけ」ということばは、新潟らしく、かつ、未来を感じる言葉であることから 「にいがたゆきどけ賞」という賞の名前が決まりました。 順位を決めることを超えて、未来を皆で探るこの卒業設計展・賞が新しい時代を切り開くきっかけになり、何年も続くことを願っています。
中谷正人
南 俊允
塚野琢也
三家大地
新潟建築学生フォーラム.n 一同
【2020.9.27追記】
「にいがたゆきどけ賞」新設に際して、トロフィーを作成いたしました。
この賞に込められた想いが受け継がれ、これからも新潟建築卒業設計展が建築の未来について思考・議論する場となることを願って
おります。
急な依頼にもかかわらず、快く作成を引き受けてくださった秋葉硝子の皆様、学生と共に議論し新たな賞を考えてくださった審査員の皆様、協賛していただいた団体の皆様、トロフィー作成に携わってくれたスタッフ、協力していただいた皆様にこの場を借りて厚く
御礼申し上げます。
new!
受賞者
〇にいがたゆきどけ賞
新潟大学 澁谷日菜
『地域の種まく小さな空港-旅人と育む農文化-』
【設計趣旨】
拠点空港の設備やアクティビティが充実していく中、地方の空港は形も機能も均質化されたものが多い。庄内空港のある山形県庄内地方は大自然に支えられ農業が盛んに行われている。都市と地域の結節点が「農業を支える地域の空港」となることで、通過点に過ぎなかった大きな箱に庄内らしさを与える。生活・地域の産業・観光が支え合う仕組みを提案する。
【審査員の講評】
人間に開かれた空港をつくるために車動線を建物端のロータリーで完結させ、空港前に大きな広場を作ったことがこの案の最も評価できる点である。発着数の少ない地方の空港であることからも移動手段としての近代的な空港ではない、大きな広場や働く車たちを感じられる、人が日常的に出かける公園のような空港になる可能性を秘めている。
〇中谷賞
金沢工業大学 山﨑晴貴
『「消費」と「アイコン」の関係変容から構築される新消費ん
ー誘発の殿堂 メタ・モルフォーゼー』
【設計趣旨】
プログラム固有の形態の形式によってデザインされた建築が社会に溢れている。そこで既存状態を裏切ったり、異なったイメージの形式を掛け合わせしたりした複合商業施設を原宿に設計することで、消費者が建築によって固定化された特有のイメージ固執した消費行動、思考を行っている事実を認識する機会をつくる。
【審査員の講評】
山﨑案は建築表現としては架構しかなく、空間や状況を作り上げているのは、並べられた商品から喚起されるイメージであり、そのイメージをいかに裏切るかという発想は現代社会の風刺であり、改めてモノの価値を問いかける姿勢でもある。「建築の2020年代」に向けたメッセージとして評価した。
〇南賞
新潟大学 小谷有希
『台地にひそむ舞台裏 -音をたのしむ居場所と交流の場-』
【設計趣旨】
金沢市における文化活動の場と生活の場を隔てる台地の縁に演者と地域の人々が交われる劇場をつくる。アマの劇団に稽古場・工房などの場所を期間を決めて貸出し、その対価として劇団は病院の患者や保育園の子供たちに向けて創作した作品を提供する。金沢の劇団による新しい創造を促すとともに、市民が日常的に舞台芸術に触れることができる場所を目指します。
【審査員の講評】
他人のことばやかたちをかりたものではなく、その人自身から生まれたもの、その人でしか生まれ得なかったものであること。それらがかたちとして現れていて、新しい時代の伊吹・片鱗を感じさせるものであること。ものの完成度ではなく、私はその二点に興味があります。それらの点で、小谷さんの卒業設計は最も魅力的でした。
〇塚野賞
新潟大学 古市真大
『風姿家伝~島の断片と作る文化の湖~』
【設計趣旨】
卒業論文の対象地であった佐渡島に何度も訪れる中で、牡蠣筏が浮かび、朱鷺が採餌に集まる加茂湖に魅了された。加茂湖周辺を散策すると、廃棄物の放置が目立ち水辺に人の姿も見られなかった。今回、佐渡特有の生活文化、能や水辺の景観を体感できる水辺空間を提案する。地域産業が介入し、住民が参加する文化の湖は佐渡に明るい未来をもたらすことになる。
【審査員の講評】
人口減少や産業衰退などの問題を抱え、大きな転換期にある地方の町。明るい未来を描くために、新しい何かに頼ったり、今まであったものを否定したりせずに、「そこにあるもの」を丁寧に読み解き、地域の産業と組み合わせながら、人々の営みが見えるように再編集しています。建築が持つ力と微かに明るい佐渡の未来を感じました。
〇三家賞
新潟日建工科専門学校 古河原花楓
『律食院』
【設計趣旨】
新潟日建工科専門学校 建築インテリアデザイン科は『食』でつながる場所 というテーマで、主に建築内部のデザインに力を入れたインテリアデザイン科ならではの設計に取り組みました。食がもつ可能性を今一度見つめ直し、今後このような建物の需要が高まることを願っています。
【審査員の講評】
食で病気を治療するという新しいビルディングタイプの提案にまず惹かれた。また、彼女が言う「同じ人が同じ場所に居座らない工夫」や「明るいリビングで食べる人、洞窟のような場で籠もりながら食べる人のための空間」など身体的かつ具体的な場の提案にいろいろな種類の人間を許容できる空間の豊かさを感じた。
〇市民賞
新潟大学 大野文歌
『繕う、マチの道-高齢者と子どもの滲む生活-』
【設計趣旨】
高齢者と子どもが触れ合うことは、お互いの生きがいと成長に繋がる。そんな生活の色が滲み、歴史ある市場を繕い、マチの賑わいが生まれる環境を提案する。高齢者の生きがいは、知識や経験を生かすこと・本を通した新しいモノへの挑戦で生まれる。子どもの成長は、本の道が日常の散歩道になり高齢者や他者との関わりにより生まれる。
〇学生賞
新潟大学 オロホントール サンダグスレン
『Towards Nomadicable Education』
【設計趣旨】
敷地はモンゴルの首都ウランバートルから約50㎞離れたセレゲレン市である。都市部と遊牧民の生活範囲の中間地点に位置し、自然環境に恵まれている場所である。プログラムは季節によって変わる遊牧民の生活リズムに合わせる「Nomadicable小学校」を提案する。モンゴルのアイデンティティである遊牧文化によって教育環境が豊かになることを目指す。